ハルのこと⑪ ハルの生きざま
リンパ腫と闘ったハルの最後をブログにするのはどうかと少し悩みました。
ペットを亡くされた方は思い出して悲しくなるかもしれないし、そもそもそういうネガティブな記事を読むことが不快な方もいらっしゃるかもしれない。
でも、精一杯、生をまっとうしたハルに敬意を評して最後の姿も記事に残すことにしました。
こういうのが嫌なかたは、どうぞご遠慮くださいますよう、お願いいたします。
脱水が酷かったハルに、毎朝自宅で皮下輸液をするようになって数日、効果をみてもらいに病院へと向かいました。
その日は前日までよりも元気がなく、ぐったりとして息が荒かったのです。
動物病院は開院前に診察券を出したのですが、たまたま私達の前の順番の方が長引き、1時間以上待ちました。
でも、ハルが初診でかかったときもかなり時間をかけて診察や検査をしてもらったし、お互い様だねといって待っていました。
病院に連れて行っても、いつもはキャリーのなかでおとなしくしているハルですが、その日はだんだん落ち着きがなくなり、ついには開口呼吸をするように・・・。
「ハルが、口を開けて息してる!!」と夫に言い、早く診察の順番が来ないかそわそわして待ちました。
まもなく呼ばれ、診察室でキャリーから出したハルはやはり必死に開口呼吸をして耐えていました。
先生は「努力呼吸をしていますね。一番考えられるのは胸水が増えて肺が膨らめないってことですが、もしかしたら腫瘍が大きくなって圧迫してるとか、その他の原因か・・・、レントゲン撮ってみますか?」と聞いてきました。
原因がわかったところでやってあげられることは少ない。でもレントゲンはすぐに撮れるし、あまり刺激がないと思い、お願いしました。
現像されるまでの間も、キャリーの中で苦しそうに開口呼吸をしているハルをみるのはとても辛かったです。途中何度か、ハルがキャリーから顔をだしてニャーと鳴きました。苦しいよ〜っと訴えている顔でした。
また診察に呼ばれ、やはり胸水がかなりたまっていることが判明。
胸に針をさして胸水を抜く応急処置をするか、利尿剤を注射し、抜けるのを待つか・・・。
胸水をぬけば、確かに一時的には苦しさが和らぐ。
でも、腫瘍が原因の胸水はまたすぐ溜まる。
しかも無麻酔で針を刺すことのストレスもかなり大きい。
先生はわかりやすく、でも迅速に、私達に選択肢を説明してくれました。
また、酸素ルームの必要性についても先生に聞きました。
酸素ルームがたとえ高額でも、ハルが楽になるなら設置してあげたいと思っていたからです。
でも先生は、肺炎の子にはとても効果があるが、胸水が溜まっている子はそもそも肺が膨らめないのだから、いくら酸素濃度を高くしてあげてもあまり効果はないと思うとのこと。酸素を与えるために狭いスペースに閉じ込めるよりは、お家の空気を吸ったほうが落ち着くのではないか、ということでした。
診察室で、涙が出て来ました。
必死に開口呼吸をするハル、そして選択肢をすぐに選ばなければいけない状況・・・。
私は泣きながら「酸素ルームはいりません。針も刺しません。利尿剤の注射だけしてください。胸水を抜いて一時的にいま苦しさが無くなっても、また苦しくなるのなら、2度苦しさを味あわせてることになる。だったら、自然に任せてハルの逝きたいときに逝かせてやりたい」
もう恥ずかしさも何もなく、涙と鼻水でべろべろになりながら、先生に伝えました。
先生は「それがいいと思います」と言い、すぐさま注射をしてくれ、今日もつかもたないかだからはやくお家に帰るようにと言ってくれました。
私がこの先生を信頼している最も大きな部分は、獣医師であるにもかかわらず、人間と一緒に暮らしている動物にとっては、薬なんかより一番いいのは家族と一緒に過ごす時間だと言いきってくれるところです。(ただし、ハルのように末期がんで緩和ケア目的の場合に限るかもしれません。)
そして家族がした選択を全面的にサポートしてくれるところです。
残された時間に限りがあるハルは、なおさら家族と過ごす時間に越した薬はないという考え方なのでしょう。
でも、私達が悩んだ時には、選択肢を明確に説明し、決して押し付けず、私達の決定を待ってくれました。そして決めたら即座に対応してくれました。
抗がん剤治療を諦めたのも、強制給餌をやめたのも、自宅での皮下輸液を始めたのも、穿刺して胸水の抜くのをしなかったのも、納得して決められたのは先生のおかげでした。
会計を済ませ、すぐに車に乗り自宅へ。
車で30分。キャリーの中でどんどん落ち着きなくなっていくハル。
私は、キャリーのなかに手をいれ、ハルの体をさすり、一生懸命声をかけました。
「もう少しでお家につくよ!もうちょっとだよ!」
そしてキャリーからぐっと顔を出し、はっきりとこっちを見て、その後数十秒苦しそうにもがいたあと、動かなくなりました。
ハルの瞳孔がパーッと開いていくのを見ました。
私は動揺して何度も名前を呼び、ハルの体をさすりましたが、そのままでした。
家に着くまで間に合わなかった・・・。
でもハル、私がずっとそばにいて声をかけてさすっていたのわかってたでしょ?
一人じゃないよ。
ハルの名前を何度も呼びながら車の中で声をあげて泣きました。
やがて自宅に到着し、部屋に戻って、キャリーから出したハルを抱きしめました。
まだ体は温かかったけど、やはり息はしていませんでした。
その辺の記憶がなんだか曖昧です。
準備してあったアスクルの水色のダンボールに、保冷剤とペットシーツを敷いてハルを寝かせてあげました。
口と目を閉じてあげたら、まるで眠っているかのような表情でした。
ハル、やっと苦しさから開放されたね・・・。
お疲れさま。よくがんばったね。
もちろん少しでも長くハルと一緒に過ごしたかった。でも明らかに苦しいのはわかったから、早くそれから開放されることも祈った。いろんな気持ちがぐるぐるしてとにかくく波が出ました。
その日の夜は、ハルと離れたくなくて一緒に寝ました。
固くなり、冷たくなっていくハルの体。
でもふわふわの毛はいつまでも手に優しく、いい匂いがしました。
不思議なことに、眠りについてからのハルの表情は時間を追うごとに柔らかくなり、最後には笑っているかのような表情になったのです。これでほんとうにもうハルは苦しくないんだ、これでよかったんだって、思ったのです。
事前に調べておいた動物の火葬をやってくれるお寺に夫が連絡をし、翌日の午前中に火葬となりました。
火葬の日はちょうど仕事が午前休みだったので、ほんとにハルはなんでも空気を読むんだなと思いました。
朝から爽やかに晴れた秋の空でした。
個別火葬を希望したので、綺麗な桐の箱のベッドに寝かしてあげ、お花と、私達の写真と、ハルが大好きだったカルカンのパウチやシーバ、ミルクを入れてあげました。
ハルはとっても綺麗で可愛くて、その場を離れることができなくて・・・。
火葬の為に鉄の扉を締めるときには辛くて夫にしがみついて泣きました。
技術の発達で、火葬場の煙突から煙は出ていませんでしたが、済んだ青い空にハルが登って行く気がして、ずっと空を眺めていました。
爽やかな風で送られて、迷わず天国へ行けたはずです。
ハルのお骨は白くて綺麗でした。係のかたが、これは肩甲骨、肋骨、大腿骨・・・と説明しながら綺麗に並べてくれて、それを夫と二人で白い壷に収めました。
たとえ骨だけであっても、愛着がわく自分の気持ちをちょっと不思議に思いながら、綺麗な骨壷を抱えてまた空を見ました。
今は綺麗なお骨になって我が家に帰ってきました。四十九日かそれくらいで、共同墓地に収める予定です。
そのほうが、動物たちの供養になるそうです。
部屋にはもうハルの姿はありません。
ハルに会いたい。この苦しい気持ちは時間がゆっくりと癒やしてくれるんだろうか。
まだまだ前向きな気持になれない自分がいます。